会社はだれのものか?-ライブドア×フジテレビ事件と会社法【2005年3月号】

 

弁護士 榎  本   修


 ライブドアがニッポン放送の株式を大量に購入したことをきっかけに、「ライブドアとフジテレビの戦い」が、このところマスコミで毎日のように報道されています。今回のライトハウスニュースでは、これをモデルケースとして、日本の会社法について考えてみましょう。
 

問題の根本は?~「大規模会社」の株主が「小規模会社」であるところ。

 今回の問題の根本は、ラジオ局であるニッポン放送(小規模会社)が、テレビ局であるフジテレビ(大規模会社)の株式を持っているというところにあります。もちろんニッポン放送も東証2部上場企業であって大きな会社ではあるのですが、フジテレビとの比較問題では「小規模」となってしまうでしょう。
 フジテレビがニッポン放送の株を持っているのではありません。逆なのです。今回は、誰もが知っているマスコミの株なので大変関心を持たれていますが、今回のケースのように「グループ企業の中で新しい会社の方が大きくなってしまった」というケースは、企業の成長過程では意外とよくあることです。
 皆さんの身近にもあるのではありませんか?例えば、トヨタ自動車株式会社と株式会社豊田自動織機の関係もそうです。もともとは、株式会社豊田自動織機の方が「本流」である訳ですが、今や「トヨタ自動車株式会社」の方が規模が格段に大きくなってしまっています。
歴史を振り返ると、ラジオ局はテレビ局より前から存在し、ラジオ局が出資をしてテレビ局を作りました。今やフジテレビの方が圧倒的にメジャーですが、ラジオ局である㈱ニッポン放送がテレビ局である株フジテレビの大株主であるという状況が続いてきた訳です。

フジテレビ・ニッポン放送側のこれまでの対策は?

 フジテレビも手をこまねいていた訳ではありません。TOB(take-over bid)と言う株式公開買付けを進めていました。これは市場から少しずつ株を買い集めてゆくという「ゆっくりした」方法です。ある意味では、敵対的M&A(敵対的企業買収。今回の事件を機に一部では「ライブドア的買収」とも呼ばれています。)に対する危機意識が欠如していたとも言えるでしょう。そこに目をつけたライブドアが一気に株を買って出たと言うわけです。
 これに対して、ニッポン放送は「新株予約権」をいうものを発行して対抗するという手に出ました。これについては商法280条ノ19以下に、詳細な規定が置かれていますが、平成13年の商法改正で規定が大幅に整備されたものです。簡単に言えば、本当に文字通り新しい株(この場合はニッポン放送株式会社の株式)を発行することについて「予約」する権利です。これによって、フジテレビは新株予約権を行使し、ニッポン放送の株式数を増やすことができます。要するに株式会社ニッポン放送は大量の新株予約権を株式会社フジテレビジョンに発行して、ライブドアの株式の価値を薄めようとしているわけです。

会社はだれのものか?

 さて、ここからが問題です。会社は一体だれのものでしょうか。従業員のものでしょうか?お客様(視聴者)のものでしょうか?このケースで言えばニッポン放送やフジテレビの経営者のものでしょうか?世の中では、そのように見られている面があります。
 会社は社長のものだと思われているのではないでしょうか。
 しかし、商法(会社法)はそのようには考えていません。
 商法(会社法)の世界では、会社は株主のものであって、経営者(社長・代表取締役)のものではないのです。経営者(社長)は、株主から頼まれて(委任されて)会社を経営しているのに過ぎない、ということになっています(商法254条3項)。これは、世の中の実際の感覚からは相当に離れることのような気がしますが、商法(会社法)では、そのように定めています。
 今回、ライブドアは、東京地方裁判所に新株予約権発行差止の仮処分を申し立てて認められ、ニッポン放送側の異議申立も退けました。裁判所は商法に従って判断します。ですから、裁判所では「自分の経営権を守りたい」という理由だけで新株予約権を発行するという場合には、その新株予約権発行を無効とする判例が多いのです。会社は株主のものであって、経営者のものではないからです。
 報道によれば、ニッポン放送側が「フジサンケイグループに残るためと言う理由もある」ということは認めながら、「調達する資金はスタジオの整備資金等にあてる」と説明しているとのことですが、これも、「資金調達の目的ではなく、現経営陣の経営権維持のみを目的とする新株予約権発行は無効とする」と裁判所に言われると困るからなのです。
 しかし、今回のケースは「企業の乗っ取りに対する企業防衛」というように考えると新株予約権発行も有効とされる可能性もあり得なくはない、ともされてきました。その点で、今回のケースは限界ギリギリの事例といえるでしょう。
 

私たちの問題として考えてみると・・・

 中小企業では大株主と代表者(社長)は一致することも多いと思います。しかし、会社が発展し、徐々に規模が大きくなるにつれ、代表者が一番の株主ではなくなってきます。また、グループ会社も増えてきます。特に株式公開や上場を果たす場合には、そのような傾向が顕著になります。ところが、日本の大企業はいつまでも社長が一番、会社は社長のものと考えてきたように思います。西武鉄道株に関する一連の報道を見ても、これからは、「社長の支配から株主の支配へ」が時代の流れのように思います。
 このような流れは大企業にだけ関係があるわけではありません。これからは、「社長が誰か」という問題と同様に「株主は誰か」という問題は、疎かにできなくなってきています。そして、昨年秋の商法改正によって株券が発行されない場合が増加したことから、「株主名簿」が非常に重要になってきています。皆さんの会社には「株主名簿」がきちんと備わっていますか?
 会社法(商法)では、会社は株主のものと定められています。株主名簿は「会社の持ち主」「会社の本当のオーナー」を示す極めて重要な書類なのです。あなたの会社の株主名簿をもう一度確認してみることをお勧めする次第です。