取引先の債権管理~倒産の予兆を感じたら……【2005年9月号】

 

弁護士 榎  本   修


 ある日、突然取引先が倒産してしまった……不況であったこの十数年、そんなことを経験された方は多いのではないでしょうか。取引先の事務所や工場には「やむなく事業を廃止することになりました」という張り紙が貼ってあったり、受任弁護士から「近日中に破産申立の予定です」という手紙やファクスが突然やってきたり。まだそれならばましな方で、ある日突然夜逃げだったということもあります。このような倒産の予兆(シグナル)をどのように察知し、その予兆を感じたらどのように対処したらよいのでしょうか。
 

倒産のシグナル

 まず、倒産のシグナルを見逃さないことが重要です。不自然な役員変更、急激な売掛金の増大、売掛金や約束手形のサイトの延長依頼、約束手形への裏書依頼、他の取引先や金融機関の保証人になってくれるように頼んでくる、もっと直接的には借金そのものを頼んでくるなどなど・・・。怪しいと思ったら、よく確かめ、危ない橋は渡らないことが大切です。一時の油断や同情が、後で厳しい結果を招くことはよくあります。

すぐにやるべきこと

(1)社内で
◆ポジションの確認
 売りと買いはどのようなバランスになっていますか?倒産直前は、急に売掛金が増えることがよくあります。相殺は、重要な債権回収手段です。常にポジションをよく確認しておくことが大切です。
◆契約書はあるか?
 きちんと契約書は揃っていますか?契約書は、商売が上手く行っている間よりもむしろこういう時の方が大切です。
◆納品書・請求書はあるか?
 倒産直前は、納品書や請求書も混乱してくることが多いです。まず、正確な売掛金の残高や商品の所在を把握することが大切ですので、そのためにはこのような証拠(エビデンス)を確認することも大切です。
◆こちらで相殺できる債務はないか?
 相殺できるのは買掛金に限りません。立替金や借りているお金、賃料等でも構いません。他に債務(こちらが支払うべきもの)はないか、すぐ確認しましょう。
(2)現場で
 何よりも相手会社の現場に自ら行って状況を確認することが大切です。現場で自己の売った商品の所在を確認するほか、現在の操業状況・財産状況・今後の見通し等についてできるだけ早く状況を掴むことが大切です。
 

対処法

(1)出荷停止~被害を減らす
 少しでも被害を減らすためには、今後の出荷を止めるべきです。ただし、これまでの契約(契約書がない場合でも同様です)の内容によっては、一方的な出荷停止は違法となる場合もありますので注意が必要です。 
(2)商品引き揚げ~同意書が大切
 引き揚げることは実効的な回収方法ですが、やり方を間違えると窃盗罪(刑法235条)等に問われることもあり得るので、代表者から正当に権限を委ねられている者の同意書をきちんと取って引き揚げることが大切です。
(3)担保・保証人をとる
 この時点では、無駄かも知れませんが、少しでも回収を進めるために担保や保証人を取る努力も必要です。担保の取り方や保証人の選択・保証書を取り付ける手続に間違いがないように注意することが必要です。
(4)債権譲渡
 相手に債権がある場合には債権譲渡を受けることも考えられます。債権譲渡の対抗要件をきちんと備えなければならないので、その点に遺漏無きを期することが大切です。
(5)法的手続
 保全手続(仮差押・仮処分)が可能な場合もありますし、本差押が可能な場合もあります。倒産状態にありながら態度をハッキリさせない相手方には、こちらから破産等の倒産手続の申立をしてプレッシャーを掛けてゆく方法もあります。
 
 以上のように様々な方法がありますが、ポイントは①スピーディーに、②法律的に的確な方法をとるということに尽きます。また、このようなときのためにこそ、契約書が非常に大切です。