新株発行が無効とされた事例

最近の裁判例から~新株発行が無効とされた事例(最高裁平成24年4月24日判決)【2013年4月号】

                            弁護士  榎  本    修


1.経営陣や従業員の士気を高めるためのストックオプション

 会社が経営陣や従業員にやる気を出してもらうため、株式を与えることがあります。方法としては、「従業員持株会」を作る等様々な方法がありますが、代表例は「ストックオプション」です。「ストック」(株式)を取得する「オプション」(選択権)を個々の役員や従業員に与えるもので、会社法でいう「新株予約権」(会社法236条以下)を株主総会などで従業員に付与するのです。

2.事件の概要

 非公開会社である
X株式会社は、ストックオプションのため「新株予約権」の発行を株主総会で定めましたが、いつ「オプション」を行使できるのかということについては、取締役会の決議に基づく契約で定める旨株主総会で決議し、取締役会では「上場後6ヶ月経過しないと新株予約権を行使できない」という条件が付されていました。ところが、その後、会社は上場が困難になったので、その後に開いた別の「取締役会で」(株主総会ではありません)「上場しなくても新株予約権を行使できる」という決議をして契約の内容を変更してしまいました。

3.裁判所の判断(今回の判決)

 最高裁は、取締役会にはこの変更の権限はなかったとした上で、今回の新株発行を無効である旨判決しました。

4.裁判例に学ぶこと

 この事件では新株予約権が付与されたのは、(会社法制定前の)旧商法の時代でしたが、新株予約権が実際に行使されたのは会社法施行(平成18年)後です。今回の最高裁判決は、会社法が新しく採用した「公開会社」「非公開会社」を区別するという考え方を背景にしている点が特徴的です。

 これまで最高裁は、新株発行を無効と判決することに消極的だと言われてきました。新株発行が無効になってしまうと、①その株式を買った人や、②その人から更に株を転得した人はどうなるのか。③株式が有効であることを前提として株主総会で選任された取締役の行為まで無効になるのか等々法律関係がかなり混乱してしまうからです。

 しかし、今回の判決で最高裁は、非公開会社の新株発行を無効としました。
 ※ ここでいう「公開」は日本語の通常の意味での「株式公開」とは違い、株式譲渡に制限がない会社のことをいいます(会社法2条5号)。

 今回、最高裁は公開会社と非公開会社を区別し、非公開会社では株式流通には限界があること(法務省で会社法立案にあたった寺田判事の補足意見参照)、無効を主張する訴訟を提起できる期間が条文上非公開会社の方が長くなっていること(会社法828条1項2号)などを考慮して、株主の権利をより保護する(株主の権利の尊重及び会社運営における決定機関としての株主総会重視)考え方から、非公開会社の新株発行を無効である旨判決しました。

 日本のほとんどの会社は非公開会社ですから、みなさんの会社も非公開会社である可能性は十分あるでしょう(定款や登記簿を見てみれば公開会社であるかどうか分かります)。その場合、今回の最高裁判決が、従前からいる株主を重視し、新株発行を無効としたリーディングケースになり得ることに十分注意する必要があるように思います。