ウィーン売買条約

海外企業との取引に自動的に適用されてしまう「ウィーン売買条約」に注意しましょう【2013年12月号】

 

弁護士   榎  本       修



 経済の動きが世界的になり、「取引の相手方は海外の会社」というご相談が増えてきました。機械や製品を輸入する場合もありますし、逆に商品を輸出するという場合もあるでしょう。今回は、そのような取引の際に重要な点をご説明したいと思います。


1.まず契約書の作成を


 契約書の作成が大切なことは、海外企業でも、国内企業でも変わりません。単なる「注文書」や「請求書」だけで取引を進めようとしていませんか?


 口頭でも契約が成立することがあります。注文書も重要な証拠ですが、トラブルが生じたとき有利な解決ができるかどうかは契約書の存否と内容によります。また、契約書がないと合意内容が不明確で紛争になる場合もあります。


 まず、「商取引基本契約書」(継続的な売買の場合)、「売買契約書」(単発の売買の場合)などの契約書をきちんと作成する実務を励行しましょう。


 当事務所の顧問法人のみなさまには、契約書の作成は(英文での大部なものなど特別の場合を除いては)無料で応じさせていただいていますので、お気軽にご相談下さい。


2.契約書の作成時に注意すること


 とりわけ海外企業との取引の場合には、
①準拠法(日本法が適用されるのか、他の国の法律か?)、②裁判管轄(日本の裁判所で裁判ができるのかどうか?)、③執行の可能性(勝訴判決が出ても相手方が従わない場合に、それを強制できるかどうか?)という3点が非常に重要です。

 日本で取引をする場合は、①当然に日本の法律が適用され、②裁判も日本の裁判所で行えます。また、③日本には強制執行の制度が完備していますから、相手方が破産等しない限り、回収の手続を進めてゆけることになります。


 これに対し、海外企業との取引の場合には、アメリカのニューヨーク州法が適用されることもありますし日本で裁判ができずシンガポールでの商事仲裁しかできないとなってしまう場合もあります。また、日本の裁判所で勝訴判決を得ても、当然には、相手の会社のある国で強制執行できるとは限りません。これは、逆も同じことで、アメリカの裁判所で敗訴しても、当然には日本では強制執行できないことになっています(日本の民事訴訟法118条)。


3.ウィーン売買条約に注意!


 以上から、海外企業との取引には契約書を作ることが重要ですが、中でも売買の性質を持つ契約(輸入や輸出も一種の売買と評価されることが多いでしょう)には、特に注意が必要です。それは、日本も加盟しているウィーン売買条約(国際連合国際商取引委員会(
UNCITRAL)が起草、1988年に発効した国連条約)があるためです。

 同条約6条は、「売買契約でこの契約にはウィーン売買条約を適用しない」という排除文言を規定しないと、自動的に同条約が適用されてしまう旨定めています。単に、「この契約については、日本法を準拠法とする」という条項を置いただけでは、当然にはウィーン売買条約は排除されないので注意が必要です。

 同条約の規定内容は日本法と似ているところも多いので、条約が適用されることが当然に不利とは言えないのですが、個々の条項によっては、契約書よりも条項の方が不利という場合もあり得ます。

 何より、折角契約書を作るのですから、契約書条項通りの効果を得たいと考えるのが通常だと思います。その意味においても、どのような条項を定めるのが良いかをアドバイスさせていただければと思いますので、お気軽にご相談ください。