パワーハラスメント(池田篤紀弁護士)

パワーハラスメント  【2017年3月号】

弁護士  池  田  篤  紀



1 パワーハラスメント(以下、パワハラ)とは

(1)セクハラという言葉と同様に、パワハラという言葉をよく耳にします。しかし、どのような行為がパワハラとなるのか、その理解はとても困難です。しかも、パワハラを直接規制する法律はありません。

(2)厚生労働省によると、「①職務上の地位や権限又は職場内の優位性を背景に、②業務の適正な範囲を超えて、③人格と尊厳を侵害する言動を行い、精神的・身体的苦痛を与え、あるいは職場環境を悪化させること」を指すといわれています。パワハラに該当することになると不法行為や安全配慮義務違反(契約違反)となり民法上の損害賠償の対象となります。

(3)なお、パワハラの特徴として業務の一環として行われることが挙げられます。業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや、仕事を与えない場合には、適正な範囲を超えるものといえ、パワハラに該当しやすくなります。

2 業務命令がパワハラと言われないためにはどうすればいい?  

適切な職場環境を維持するためには、パワハラ対策は必要不可欠です。しかし、セクハラ以上に「こうすべき」という対策はありません。なぜなら、前述のとおり、パワハラは業務の一環としてなされる可能性があるからです。そのため、当たり前のことですが、次のような「意識」を「強く」もつことが重要です。

(1)部下の健康状態の把握  
管理監督者は、上司の言動によっては、部下は人格を傷つけられ、あるいは疎外感を持つなどにより、過度の心理的負担を受け、心身の健康を損なう場合があることを認識しなければなりません。

(2)コミュニケーションを図り、良好な職場環境を作る  
上司である自分と部下や部下同士など、職員間のコミュニケーションが図られているか、パワハラが起きていないか、日頃から目を配り、良好な職場づくりに努め、職員がその能力を充分に発揮できる職場環境を確保することが必要です。

(3)被害者へ声を掛ける、相談にのる  
監督者は、パワハラに関する問題を見聞きした場合には、被害者の状況を見ながら、被害者へ声を掛けたり、相談にのったり、また、場合によっては、加害者に注意を促したりする必要もあります。

3 まとめ  

企業の発展のためには、従業員を犠牲にするのではなく、従業員にとって適切な職場環境を維持することが必要不可欠です。パワハラ予防についても、少しの心がけ次第で十分に予防することができます。「事後的な解決」よりも、「予防」を重視することこそが、適切な職場環境を維持することにつながるのではないでしょうか。