相続法が改正されました(その2)(杉浦宇子弁護士)

相続法が改正されました(その2)  【2018年9月号】

                                         弁護士  杉  浦  宇  子

 前号で、榎本弁護士が、この7月の国会で成立した相続法改正の重要ポイントの解説をしたのに続き、同改正の中、配偶者の保護が厚くなった点がありますので杉浦から説明します。

1 配偶者の居住権の創設

 今回の改正で、被相続人が所有する家に住んでいる配偶者の被相続人亡き後の居住を保護するために、①配偶者短期居住権 ②配偶者居住権の2つの権利が創設されました。

①配偶者短期居住権
 相続開始時に被相続人の持ち家に無償で住んでいた配偶者は、その使用部分に限って一定期間無償で使用できるとする権利です。
 自分の配偶者の所有する家で同居するのにわざわざ居住権を設定する契約などせず同居するのが普通ですから、配偶者が亡くなった後に完全に自分の権利とはなっていない家に住み続けることのできる権利は何かという問題が出てくるわけです。
 現行法でも判例理論により同居相続人の居住を保護する努力がされてきましたが、相続開始により当然に権利が発生する配偶者短期居住権の創設により、のこされた配偶者の居住につきより一層の保護が図られました。

②配偶者居住権(長期居住権)
 これは、相続開始時に被相続人所有の家に住んでいた配偶者は、原則としてその終身の間、その家を無償で使用収益出来るとする権利です。この権利は、配偶者短期居住権と違って、相続開始により当然に権利が発生するものではなく、遺贈又は遺産分割によってこの権利を取得させる必要があります。
 自分の死後にのこされた配偶者が、相続人間で揉めることなく、安心して居住できるようにしておきたいときには、配偶者にこの権利を取得させる旨の公正証書遺言を作成することで対処できるようになります。

 その他①と②の各居住権は内容に色々と違いがあります。

2 配偶者の特別受益の持戻免除

 現行法では、被相続人から生前に遺贈や贈与により「特別受益」を得たと認められる相続人がいた場合、相続人間の公平を図るために、遺産分割の際、「特別受益」を一旦遺産に持ち戻して各相続人の取り分を計算することになっています。
 今回の改正では、婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住不動産が遺贈・生前贈与された場合に限り、遺産分割において原則として遺産に持ち戻す必要はないとされました。
 被相続人が生前に配偶者に居住する家を贈与していた場合、現行法により遺産分割の際に特別受益の持ち戻しをすると、不動産は遺産の中でも高額評価となるので、預貯金等不動産以外の配偶者の遺産分割での取り分が僅かになってしまいますが、改正法では、生前贈与を受けた不動産を遺産に持ち戻さなくてもよいので、配偶者が遺産分割で取得する預貯金等の取り分が増えることになります。その分、被相続人亡き後の被相続人の配偶者の生活を保護できることとなります。